社会の設計図を書き換えるとき――現政権、憲法改正、そして私たちの尊厳
「憲法を変える」というニュースを聞くと、多くの人は自衛隊のことや、緊急事態のときの決まりのことを思い浮かべるかもしれません。確かにそれらは大きな論点です。しかし、憲法改正の議論の中には、マイノリティの方々の暮らしや「家族の形」に直結する、とても大切なテーマが隠されています。
2026年現在、自民党を中心とする現政権は、憲法改正を「党の悲願」として掲げ、議論を加速させています。この動きを考えるとき、私たちは「自由」や「平等」という言葉が、これから先もすべての人に等しく注がれるのか、それとも「新しいルール」によって誰かがこぼれ落ちてしまうのかを、見極める必要があります。
この記事のポイント
1. 憲法24条をめぐる「家族」の議論
憲法改正の議論の中で、LGBTQ+の方々が特に注目しているのが「憲法24条」です。今の24条には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し……」という言葉があります。
この「両性」という言葉をめぐって、「男と女でなければ結婚できない」と考える人と、「当事者同士の自由な意思があれば性別は関係ない」と考える人がいます。
現政権のスタンスと「伝統」
現政権の中には、日本古来の「伝統的な家族の形」を大切にしたいと考える方々が少なくありません。そのため、憲法改正の議論の中で「家族は社会の基礎であり、互いに助け合わなければならない」といった趣旨の言葉を憲法に書き加えようという案が出ることがあります。
一見すると、助け合いを促す良い言葉のように聞こえるかもしれません。しかし、「家族とはこういうものだ」という定義が憲法に書き込まれることで、そこから外れる同性カップルや一人親家庭、子供を持たない選択をした人たちが「普通の家族ではない」という視線にさらされる懸念があります。
「同性婚」への道は開かれるのか
現在日本各地で行われている「同性婚訴訟」では、裁判所が、今の法律が同性婚を認めていないことについて違憲または違憲状態と判断する例が続いています。憲法改正の議論が、すべての人が結婚の自由を享受できる社会へ向かうのか、それとも「伝統的な家族」を固定化する方向へ向かうのか。私たちはその分岐点に立っています。
2. 「個人の尊重」と「公共の福祉」のバランス
憲法13条には、「すべて国民は、個人として尊重される」と記されています。これが、私たちの自由な生き方を守ってくれる「個人の尊厳」の根拠です。
マイノリティの方々にとって、この「個人として尊重される」という言葉は、何物にも代えがたい心の支えです。自分の性自認や性的指向、あるいは障がいやルーツによって、誰からも否定されないという約束だからです。
一方で、憲法改正案の中には「公共の利益」や「社会の秩序」をより重視するような言葉が盛り込まれることがあります。多数派にとっての「当たり前」を維持するために、少数派の自由が制限されてしまうようなことがあってはなりません。
3. 緊急事態条項と「弱い立場」の人々
憲法改正の主要な柱の一つに「緊急事態条項」の新設があります。大災害やパンデミックの際に、政府が強い権限を持つ仕組みです。
過去の歴史を振り返ると、社会が大きなパニックに陥ったとき、真っ先に排斥されたり、権利を制限されたりするのは、いつもマイノリティの人々でした。「安心」という言葉の裏側に、誰かの「犠牲」が含まれていないかを問い続ける必要があります。
4. 「理解増進」の先にあるもの
現政権下では2023年に「LGBT理解増進法」が施行されました。これによって、職場や学校で「多様性」について語られる機会が増えたのは確かな一歩です。
しかし、この法律には「差別を禁止する」という強い力はありません。憲法改正を議論するほどの大きな政治の力があるのなら、それを「理解してあげる」という歩み寄りにとどめず、「一人の市民として平等な権利を保障する」という法整備へつなげるべきだという声があります。
5. 結び:私たちの「声」が設計図を描く
憲法は、政治家だけが作るものではありません。最後は国民投票によって、私たち自身が判断を下すものです。
憲法を変えるということが、「誰かを排除するための壁」を築くことではなく、「誰もが自分らしくいられる屋根」を広げることであるように。政治の言葉を自分たちの言葉に引き寄せて考え、自分とは違う立場にいる誰かの痛みを想像してみることが、より公平な社会の設計図を描く第一歩です。
出典・参考資料
- 自由民主党「憲法改正実現本部:憲法改正の必要性について」
- 日本弁護士連合会「憲法改正問題に関する宣言・提言」
- Marriage For All Japan「憲法24条と同性婚訴訟のゆくえ」
- 認定NPO法人虹色ダイバーシティ「マイノリティ政策に関する当事者の意識」
- 国連人権理事会「日本に対する人権審査勧告」
\ この記事の要約 /